しろばなさんかく

ボカロと音楽のことを書いていきます

#2021年ボカロ10選 後記

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※2021年ボカロ10選後記はTwitter上のコメント形式で寸評を書きました。

 備忘の為、ブログにも転載します。

※別途、Striplessレーベル『合成音声音楽の世界2021』の

 「SONGS OF 2021」「ALBUMS OF 2021」へ一部寄稿しています。

 合わせてご確認下さい。

 

 

stripeless.booth.pm

 

 

 

 

アイロニーナ/煮ル果実

 

hyperpopやレイト80sとも同期するところの、いわゆる過剰なポップネスをボカロシーンにおいて体現したであろう一作。目眩くビビッドなMV表現はなおのこと、チープなシンセもダンスビートも輪郭線がクッキリ見えるかのようで、浮世絵を連想させるような特有の聴き応えがある。エチゾチック。

 

 

②ロウワー/ぬゆり

 

ボカロ的エレクトロスウィングの発展最新型。徹底されたスウィングの刻み、動き回るベースライン、スパイスとしてのブラスセクション…というよりむしろヴォーカルをブラス的に捉えたメロディ構築なのか?といった諸々の要素が、プロトタイプたる「フラジール」から5年を経てかなり自覚的にアップデートされていて圧巻の極み

 

 

③deco/つくの

 

Ayase以降のボカロシーンを見渡すとリズムトレンドとしてミドルテンポなスウィング/シャッフルビートの比重と練度が年々増してる気がしますが、この曲はそんな中でも2021年に特に聴き込んだ作品でした。細かいハイハットの配置と出し入れ緩急のこなれ感が、ゆるいMVと相まってひたすら心地良い。

 

 

④幽霊/KAIRUI

 

トイ/フォークトロニカ、或いは吐息のひとつでさえもASMRというバズワードの前に整列させられ厳しく再査定を受ける時代性。音の粒立ちにそれが透けるほど偏執的な作り込みながら、あくまでボカロなエレクトロポップの枠内にキッチリ収めてくるのがニクい。後半のフュージョン・ハウス的な飛翔感も最高。

 

 

⑤808の残滓/星宮スイ

 

「808」と言えばクラブミュージックの歴史を変えたドラムマシンの名機TR-808とそのサウンドが持つ意味、象徴性を指すのは言わずもがな。そのレファレンスからの大胆な飛躍というか…ソーシャルな「chill」や「エモ」へと難なく接続して一つの哀感に落とし込んでしまうミックス感覚が非常に現代的で◎

 

 

⑥シチューがおかずになるなんて/ondo

 

コロナ禍での現代ジャズ・エレクトロに通底するキーワードとして「内省」があったわけですが、ルーツを遡りすぎていささかスピリチュアルな趣すらあったUS/UKに比較しても、明け方の食欲に思いがけず宇宙を発見してしまうこの曲はとても豊か、かつユニークでした。それぞれの場所で生活の祈りがある。

 

 

⑦ジョーク/青屋夏生

 

MVの情報量が多すぎる。たくさん笑わせてもらいました。シニカルな視点と初音ミクの平熱を保った歌唱が普遍性を飲み込みながら一周回ってきた結果、なぜかどちゃくそ真っ直ぐな希望に接続するという…ボカロ版のホープパンクと言うべき傑作。青屋夏生の真骨頂でしょう。唐突に出てくる三県境も好きです

 

 

⑧殺して見せろよ音楽で。/樫本鳴葉

 

最近のボカロにありがちなことを挙げ連ねるという…発想としては何てこと無い曲?でありながら、20数点にも及ぶ鋭い抽出に怒りと熱情の殴打が加わり、図らずもシーンの現在地を活写してしまった怪作。上張りの諦念では全く誤魔化しきれない大きな感情。それがいつかまた浴びたくなって、再訪してしまう

 

 

⑨代用品は代替品/semicolon

 

ボカロシーンとメジャーの切分けが最早不可能なほど越境が進み、AI歌唱合成も突詰めれば辿り着くのは肉声に他ならないことが判明した2021年。つまるところ我々が愛してきた合成音声とは一体何だったのか。代替出来ないそれは「誰」に成ってしまったのか。そろそろ断罪される日がやって来るのでしょう。

 

 

⑩九月の青空さえも/鈴木凹

 

合成音声によるクワイアが何故こんなにイノセントに心の臓を締め付けるのか。また一年考えてみましたが、答えは出ませんでした。なんもわからん。何時かの何処か、誰かの追憶に感傷を預けながら。存在しない記憶に涙を流しながら。これまでもこれからも、何度だって人間になりたい。そう願っています